不眠症の眠れない夜

元アル中、初老の繰り言、戯れ言か、と。

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鼠の目#484(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親
安田=TV局の放送記者

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ヒクッ、ヒクッ、と若者は泣いていた。

なぜ泣く?

安田は不思議でたまらない。

人を殺すということは、なまなかなことではできないはずだ。

いやむしろ、きわめたような覚悟がいるはずだ。

それがこのようなどこにでもいる若者に人が殺せるのか?

あのゲームセンター、あそこの居酒屋、繁華街、そこでにこやかに笑っている若者となんら変わらないのだ。

(すいません。現在、単身赴任のゴタゴタで、途切れ途切れの掲載になります。気が向かれましたら覗いてみてください。ひょっとしたら新原稿をアップしているかもしれません)



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鼠の目#483(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

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<主な登場人物>

安田には現実感が乏しかった。

そこに死体が転がり、射殺した、いわゆる犯人が目前で土下座をしている。

歌舞伎の世話物でもこうはいかないんじゃないか、安田はそんなことを思っていた。

顔中を涙と鼻汁でグジャグジャにさせた若者にが、むしろ哀れに思えて仕方がなかった。

「なぜ君は警官を射殺したんだね」

安田は泣きじゃくる波動の若者に問うた。

それはごく自然な記者根性の発露だった。

「なぜ…なぜといわれても…。そこに敵がいて…大先師様の『殲滅せよ』の命令があったわけですし…」

「じゃあ、君は機械的に引き金を引いただけだというのかね?殺意がなかったとでも?」

「ええ。ええ。無論そうです。本当に死ぬなんて思わなかった」

「ライフルで打ち抜けば、人は死ぬだろう?そのことは理解していたんじゃないかね?」

「いや、あの、えーと、どうなんかな。ええ、そうです。死ぬんだろうな、という予感はありました」

「だから殺そうと思ったんだろう?」

安田の記者としての知りたがりがムクムクと大きくなり始めていた。

これは大スクープだ。

その思いが強くあった。

でなければ、ムービーカメラを回しっぱなしにできるわけはない。

ああ、これで放送協会賞は取れたも同然だ、と内心ほくそ笑んだ。

いったろうが。

取材対象に1ミリでも近づくこと。

でなければマトモな原稿なんてできるもんか。

吐き気とともに胃液を吐き散らしたことなどすっかり忘れ、安田は震えるような興奮を感じていた。

「君は人を殺したことがあるのかね?」

安田はカマをかけた質問をしたつもりだった。

しかし、波動の若者は口に手を当て逡巡し始めた。

おい、待て。

こいつ、ほかにも人を殺したことがあるのか?

安田の警戒アラームが大きな音を脳内で発し始めた。



鼠の目#482(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親
安田=TV局の放送記者

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その若者が震えながらいった。

「す、す、すみません…」

すみません、だと?

安田は汚れた口元を手で拭いながら、訝しく思った。

すみません、ってな謝る言葉だ。

この若者は申し訳ない、と思っているのか?

安田はそのことが不思議でならなかった。

安田は思い切ってその若者に呼びかけた。

「君は波動かね?」

え、ええ、と若者は弱々しく答えた。

それは辛うじて安田の耳に聞こえた。

「なぜ、彼、あー、つまりその警官を射殺したんだね?」

このような会話が成り立つのかどうか、安田には判らなかったが、質問を発せしめたのは安田自身の記者本能だったのかもしれない。

ムービーカメラも回りっぱなしだった。

「あ、いや、ごめんなさい。殺すつもりはなかったんです」

「しかし君はライフルの引き金を引いた。結果、その警官は頭を打ち抜かれ死んだ。そのことはこのムービーカメラが記録している」

「そ、そ、そんな…。ウソでしょ…」

「こんなところでウソをいっても始まらない。君の銃弾で彼は死んだんだ」

一気に、波動の若者の顔が歪んだ。

若者の目がみるみる曇った。

若者は銃をその場に放り捨てると、つかつかと安田の近くに寄ってきた。

近づいてくるその若者の顔がハッキリしてくると、ボロボロと涙を流していることが判った。

若者はしきりに頭を下げながら、スイマセン、スイマセンと謝っていた。

安田のすぐ目前まで来ると、若者はガバと土下座した。

ごめんなさい、と頭を土にこすり付けていた。

「手をあげてくれ。オレは警官でもなんでもない。プレス、つまり放送記者なんだ。オレに謝ったところでなにもならいんだ」

「いや、いいんです。謝らさせてください。ごめんなさい…」

涙声で答えた若者は、そのままヒクッヒクッと嗚咽し始めた。



鼠の目#481(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

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安田の短くはない記者生活でも、目前で人が殺される状況は初めてだった。

確かに、イヤになるほど死体を見た。

怪我人も見た。

子を事故で失った肉親の愁嘆場など、枚挙に暇がないほどだ。

そのような情景を見続けると、記者は一様にスレてくる。

単純に感情移入だけでは済まないという客観性が備わってくる。

ある意味、それは記者の修練の結果ではあるが、ややもすればニヒルで虚無的な世界観を生み出すことにもなる。

焼死体を「焼き鳥」といってはばからぬような不遜な性格ともなる。

しかし、今度ばかりは違った。

脳漿と血を吹き上げ、眼球が破裂し、瞬間でむごたらしい物体と化してしまったのだ。

さきほどまで安田のことを誰何した若い警官が、首から上を粉砕されて転がっている。

胴震えのあと、安田は強烈な吐き気を催した。

酸っぱいものが胸を覆い、胃液が逆流してきた。

安田は吐いた。

先刻、胃袋にいれたコンビニのオニギリらしい未消化の米飯と、薄汚い色の胃液を吐き散らした。

それは安田のズボンの裾を汚した。

しかし安田のムービーカメラは過たず発射方向を睨んでいた。

そこには蒼白な顔の、死んだ警官よりさらにあどけない表情の若者が写しこまれていた。

改めてその記録画像を再現すれば、呆けたような表情で警官の死体を眺めている若者が写っているはずだ。

そして、その若者が手にしているライフルの銃口が、小刻みに震えていることも記録されているはずだ。



鼠の目#480(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親
安田=TV局の放送記者

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まだ若い警官がビクッと振り向いた。

顔にはありありと恐怖がある。

「動くな。波動だな、オマエは」

ライフルを安田に向け、警官が鋭く叫んだ。

「いや。違う。オレはTV局だ。報道。プレスだ」

安田は警官の姿も記録するべく、大体の見当をつけてムービーを回し続けていた。

広場からの明かりが逆光になるが、なに、あとでデジタル修正をかませば使えないことはあるまい。

「TV局だと?記者章でもあるのか?」

安田は背広のポケットからTV局の腕章を取り出した。

「ああ、これが腕章だ。それにオレが丸腰ってことは、風体を見りゃわかるだろうが」

「なぜ記者がこんなとこにいる。規制されているだろうが」

「バカいうない。のんびり遊んでちゃいい絵なんて撮れるもんか。現場に突入しなきゃいけないのはアンタたちと一緒だ」

「ばかやろう。ここは銃弾が飛び交ってんだ。危険だから下がれ。ここから離れろ」

「いやだね。離れない」

「死にたいのか。なんなら逮捕するぞ」

「容疑は?」

若い警官が答えようとしたとき、ヒュンと銃弾の風切り音が聞こえた。

バフッという圧搾音があったかと思うと、警官の頭半分が飛び散った。

血と脳漿が噴水を上げた。

そのまま警官は横倒しに崩れた。

安田の身体が硬直し、瘧のように胴震いが始まった。

しかしそれでもムービーカメラを止めることはなかった。



鼠の目#479(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

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現場に近付くにつれ、銃声と怒号がますますハッキリと聞こえる。

はしなくも安田はワクワクしていた。

現場とはこれだ、性的な興奮さえ覚えるようなスリリングな場所なんだ、その思いを強くした。

広場が辛うじて見える場所に安田は身を潜めた。

慌しく動くのは警察だろうか。

ライフルで武装している。

ときどき立ち止まっては周りを見渡して、安全を確認していた。

立ち木の間を通して、いくつか転がっている人間の身体が見えた。

あれは死体だ、と安田は確信した。

好都合なことに広場は警察の投光器で明々と照らされている。

撮影用の照明を持参していない安田にとって、照明不要の明るさはありがたかった。

身体をかがめ、ムービーを回す。

手のひらに入るようなサイズでありながら、ズームもレンズも性能は申し分ない。

昔ならテキヤの引越しのような道具立てが必要ではあったんだが、今は誰でも放送記者になれる。

メディアはパーソナル化するな、と変なところで安田は納得した。

しかし、これからが安田の安田たる所以だった。

対象に徹底して迫る。

これが安田のスタイルだ。

安田はジリジリと広場のへりを目指した。

少し前方にライフルを抱えた警官の姿が見える。

視界から離れるべく迂回して回り込もうとした。

安田の足元に浮石があった。

不覚にも浮石に足を取られた安田が、どうと倒れこんでしまった。



鼠の目#478(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親
安田=TV局の放送記者

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安田は自らに課していることがあった。

現場の生な空気を吸わない限り、原稿はできやしない、と。

警察広報や通信社電報に頼っていては、なにもわかりやしない、と痛切に思っていた。

原稿を書く、読む、ということでは最低限のことはできるだろう。

しかしオレはリアルな人間に迫りたい。

それは無味乾燥な5W1Hで発表される警察広報には存在しない。

ただ文字面が羅列されているだけだ。

殺人現場に流れた血と凶器が発する無言の叫び。

淫売宿で繰り広げられる粘液と分泌物。

業者と政治家、高級官僚の間で交わされる乾杯の音と、札びらの匂い。

それらをリアルに感じ取れなければ、記事としての命はない。

そもそもオレは警察広報の代弁者ではないのだ。

代弁者に成り果てれば、サラリーマン安田とはなりえても、「記者」安田とはなり得ないはずだ。

これこそがオレの矜持だ、と思っていた。

蛇蝎のごとく嫌われようとも、塩や水をまかれてもいい。

しかし、それでもオレは記者・安田であるべきだ、と心に刻んでいた。

安田にとって警戒線を破ることは児戯に等しかった。

山中なのだ。

しかも雨がしのつき、薄暗くなり始めている。

少し後方に下がり、わずかに迂回すれば、なんなんく警戒線を突破できた。

登山道にでるまで、鬱陶しいヤブコギはあるが、それさえこなしてしまえば、簡単なものだった。

あとは警察に見つからぬよう、注意して進めば、どうということはなかった。

安田は自らの体力を叱咤し、可能な限り強く足を運んだ。

現場までわずか40分。

自分でも驚くほどの短時間で到着することができた。



鼠の目#477(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

無題

男の名前は安田といった。

圭角のある性格のためか、会社内では浮いた存在だった。

もうそろそろ50歳近いというのに、出世にも縁遠く、在勤年数に応じて付与される資格職があるきりだった。

服装やファッションにはてんで関心がなく、そのモッサリした風貌ともあいまって、ずっと独身のままだった。

ただ彼には記者として天賦の才があった。

粘着して取材対象から離れない、ということだった。

そのためには彼は身銭を切ることすら厭わなかった。

どうせ独り者の気安さもある。

さらにTV業界とは高給で知られる職種だ。

安田は、これぞ、という取材対象者には過剰なほどその懐に飛び込んでいった。

無論、そのことが相手に嫌がられることも度々あった。

しかし、安田は一切、斟酌しなかった。

(どうせオレが放送記者でなくなれば、ハナもひっかけられないのだ。ならば引っ掻き回せる間は、とことん引っ掻き回してやる)

安田は放送記者の名刺のありがたさがわかっていた。

名刺一本で政治家でも経済人でも文化人でも堂々と面会できる。

ときにそれは己の実力と勘違いするバカもいるが、オレはそんな夜郎自大じゃない。

先輩が作り上げた会社に対して相手は敬意を表しているだけだ。

いや、もっとはっきりいえば、取材対象者はTVでバッドニュースを放送されたらどうする、という恐怖感に支配されているのだ。

ここはゴマをすっとかないとマズイ、と判断しているにすぎぬ。

どうせオレが退職したら、アンタ誰?と無視されるだけだ。

オレには地位も名誉も金も知力もない。

素寒貧のなんにもない、だ。

ならば名刺の力は使えるうちに使ってやろう。

クソ面白くもない人生を少しでも面白くするために、利用できることはトコトン利用してやれ。

ある意味、安田はエキセントリックではあるが、マスコミの傲岸不遜からは一番遠い地点にいた。



鼠の目#476(ほぼ前文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親

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波動はカルトである、と一刀両断するのはいい。

しかし、そのことは逆に言えば、盲目的あるいは狂信的に目的を果たそうとする推進力にはなる。

自らの存在や哲学をすべて賭けて、事を進めることが可能なのだ。

概念的な「市民の安全を守る」という職業倫理にたつ警察官のモチベーションとは決定的に異なっている。

ある意味、どこまでいっても警察側はサラリーマンであり、自らが守るべきものが多すぎるのだ。

出世や自己保身は敢闘精神を加速しないのだ。

その点、波動は守るべきは川崎姉妹の指令でしかない。

およそ行動原理に夾雑物がない。

銃をとり、敵を殲滅せよ。

川崎姉妹の言葉が目的であり、唯一無二の指針なのである。

こういう光景が見られた。

広場を対峙点とする主戦闘で、へっぴり腰の警官と、AK47を乱射しつつ突っ切る波動メンバーだ。

警官は上官に叱咤され、拡声器で鼓舞されながら、ジュラルミン盾を前面に立てて進む。

がしかし突撃ライフルの貫通力の前にはジュラルミン盾はあまりに非力であり、ライフル弾に射抜かれた警官を放置したまま退却する。

しかし波動は吶喊の声を叫びながら、ライフルを乱射し、気合で広場を横切った。

鎧袖一触、衆寡敵せず、とはこのことだろう。

すでに広場には強力な投光機が照射されている。

しかし何体かの遺体が転がったままの広場に進捗は見られない。

すでにマスコミは規制線の外側に有象無象に集まっていた。

遠くから聞こえる間断ない銃撃音、拡声器の怒号、警察ヘリの乱舞、垣間見える投光機の明かり、それらにジリジリしながら警察広報官を取り囲んでいた。

なにか発表することはないんですか、と。

唯一の例外は、皆殺しにされたTV局の跳ね上がり記者の一人が、小型ムービーカメラを持って、こっそり規制線を破っていったことだろう。

彼は嫌われ者だったが、じっとしていてもなにもわからない、そのことだけはヒリヒリとわかっていた。



鼠の目#475(ほぼ前文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親

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広場中央を巡る波動と警官との攻防は、一進一退の膠着状態が続いていた。

未曾有の騒乱事件に警察はその威信をかけて、総動員をかけていたし、政府中央も事の重大さに鑑み、治安出動も視野にいれ、自衛隊の派遣も検討され始めていた。

少なくともこの国で、ライフルによる、組織的な銃撃戦が行われた歴史はない。

浅間山荘事件という極左の発砲事件はあった。

しかし、あの事件で使われたライフルは軍事用ではなく、その数も数丁にとどまる。

ところが波動は、その十数倍の軍用突撃ライフルで武装し対峙している。

すでにこれは事件という生易しいレベルをこえ、ゲリラ戦状態にあるのだ。

治安出動が議論されてもおかしくはない。

すでに警察側は波動を圧倒する人員と火力と機械力を展開していた。

戦力的に波動との彼我の差は決定的なレベルにはあった。

しかし小雨と夕暮れ、さらに木々に遮られた地形が波動にアドバンテージをもたらしている。

加えて決定的な違いがあった。

戦闘へのモチベーション、すなわち、死をも怖れぬ敢闘精神である。



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