鼠の目#465(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

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ピシッ!

再度の銃弾が際を掠めた。

唯一の救いは、銃弾を惜しんでいるのか、フルオートで発射しないことだ。

フルオートで撃ち抜かれれば、あっというまに山下は骨と肉のミンチ状態になる。

波動はフルオートを知らないか、さもなくば自信がないかのいずれかだろう。

当然、山下とて、ライフルを実射したことはない。

立ち木を背に山下は短銃を腰ダメに構えた。

やらなきゃ、やられる。

ただ生き延びる、その本能だけが、山下を支配していた。

横の立ち木に走った。

その瞬間、ピシッとまた銃弾が掠めた。

立ち木からもう一度横に走り出そうとフェイントをかけ、腰ダメの姿勢で短銃の引き金をひいた。

ズンという衝撃は、確かに敵を射抜いた、という手応えだ。

人に銃弾をブチ込むとはこういうことかもしれない。

もんどりうって、波動が倒れた。

その傍に、山下は駆け寄った。

左胸の一部が裂け、盛大に血が吹き上がっていた。

即死、のはずだ。

不愉快な感情が山下を満たした。

この若造だって、波動にさえ入らなければ、輝くような未来があっただろうと思うと、どうにもやりきれない索漠感が広がった。

すでに状況は公務執行妨害の域を超えている。

本来なら、自衛隊による治安出動、つまり内乱の兆しさえある。

波動を射殺したことに、情としての憐憫はあっても、理としては極めて正当なものであるはずだ。

山下はそのまま踵を返し、広場方向へ向かった。

2、3歩進むと、頬にポツリと冷たいものが当たった。

雨か、厄介なことになるな、と山下は鬱陶しくなってきた。