鼠の目#468(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親

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「山下、どうだっ、山下っ、大丈夫かっ?」

ケンスケの問いかけに、山下はピクリとも反応しなかった。

胸、腹、首から大量の出血があり、一部からは内臓がはみ出ている。

完全な即死状態であることは、ケンスケにもわかった。

すでに、出血は止まっている。

流しつくせるだけの血が流れてしまったのだろう。

なんともあっけない山下の死だった。

こんな食えない刑事はないな、とケンスケも思っていた。

確かに食えない。

食えないが警官としてはピカイチだった。

徹底して市民の安全を護る。

この一点にのみが山下の行動原理だった。

いつも仏頂面で皮肉しかいわない山下。

もう定年前なんだ、面倒なことはゴメンだ、といっていた山下。

遅くできた娘の結婚に難色を示しつつも、幸あれかし、と祈っていた山下。

肥満を気にしながらも、酒も煙草も頑としてやめなかった山下。

人情なんてクソクラエとうそぶくように見えて、実はもっと所轄でウェットだった山下。

その山下がものもいわず、血だらけで転がっている。

さっきのマリーといい、今度は山下だ。

ケンスケの底の底でなにかが破れた気がした。

ブツッっと音を立てて、感情の腱が切れた。

ケンスケは尻ポケットからナイフを取り出した。

長田を殺す、その一点に意識が集中した。

ツツッと長田のそばによると、手のひらで思い切り長田の頬をひっぱたいた。

ア、ガ、ガ、ガ、ガ…。

割れた顎で喋りにくいのか、長田が意味のない言葉を吐いた。

ケンスケは長田の蓬髪をわしづかみにすると、グイと顔を上げさせた。

そして大声で叫んだ。

「長田ッ!オマエはオレが殺す!いつまでものんびり寝てんじゃねぇ」

ケンスケはフォールディングナイフの切っ先を長田の頬に当てた。