鼠の目#471(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

20060804_211177.jpg

オレと和田由美子はまだマリーのそばに居た。

その方が少しは安全かもしれない、という判断もあった。

ケンスケは長田を追っていった。

由美子は先ほどまでの呆然から立ち直っていた。

その顔貌には、長田への復讐が朱となって現れていた。

断続的なライフルの発射音とヘリの轟音、それを包むように小糠雨が降り出している。

「由美子。オマエはやはりここから下山したほうがいい」

オレの言葉に由美子は決然と答えた。

「下りないわ。絶対に。洋子と宮崎一平君、それにマリーさんまで殺した長田を、決して赦せない」

「しかし、あの射撃音も聞こえるだろう。極めて危険な状況なんだ」

「だからいいじゃない。ことをなすにはうってつけだわ」

「ことをなす、か」

「そうよ。殺すのよ、長田を」

オレは由美子の目を見て、ちょっと驚いた。

普通じゃない。

トランス状態のそれに近い。

どこの焦点があっているのか、判然としない目だ。

ダーン、とすぐ横で着弾音が炸裂した。

オレも由美子も、ビクッと身体を震わせた。

この音は否が応でも現実の状況を想起させる。

「こんな状態でも、か」

「何度もいわせないで。わたしは長田を殺すの。それに…」

「それに、なんだ?」

「あ、いいの。忘れてちょうだい」

思わせぶりな由美子の態度だった。

「しかし由美子。殺すといっても、どうやって殺すんだ」

「方法なんて考えてないわ。意志のあるところに道はあるわ」

報復の意志、か。

怒りもて、報復のハードルを飛び越えるわけだ。