鼠の目#373(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

キスシーン


どれくらいそうしていただろう。

オレの胸に横顔を埋めていた由美子が顔を上げ、オレの両頬を掌ではさんだ。

加齢と労働で少しだけ生活感のある触感だった。

オレはそれが気持ちよかった。

成熟した女の手だ。

エステだ整形だと狂態を尽くすクソ女のそれではない。

まっとうな生の証だ。

いいか、この生活感の典雅さがわからないようじゃ、まだまだ自分はドチンピラだ、と覚悟するんだな。

由美子が少し背伸びをした。

薄いルージュの引かれた唇がオレのそれに近づいてくる。

あるがまま、そう、あるがままにオレは従容と受けた。

由美子にしても跳躍するような思いでこうしているのだ。

愛おしいじゃないか。

女の気持ちに答えなきゃいけない場面じゃないか。

両手を由美子の背中に回し、ゆっくりと、しかしパトスをこめ力をいれた。

やわらかな由美子の皮下脂肪が感じられる。

ああ、これが女のたおやかさであり、生の豊穣だ。

男の乾燥を補う女の湿潤だ。

由美子の唇がオレの唇を塞いだ。

そこからおずおずと由美子の舌が侵入してきた。

オレはその唇に最大限の敬意を払い、オレの舌で答礼をした。

滑らかに、じっとりと二つの舌が絡み合い、互いの存在を確認しあう。

愛している、という内意をこめ、粘膜同士がもつれている。

あたかも舌そのものに能動的意志があるかのような動きだった。

舌の交歓は、オレの決意を起動させるのに有り余るほどの信号だった。

オレの下半身が熱く励起しはじめた。