鼠の目#391(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

深山


「急に動き出した、という印象だ。それも昨日から、という慌しさだ。公安からは警戒レベルを上げよ、と指令が来た。波動本部、川崎家が監視下にある。さらに彼らが結集しているあの土地を監視下に入れる。彼らはオウムで懲りているからな。対応がまずいとマスコミに叩かれる」

「マスコミ怖さかね」

「質問はなし、といった」

まったく、この山下刑事ってのは食えない野郎だな。

「それで、だ。波動についてはオマエのほうに若干のアドバンテージがあると認める。で、オレは職務上の倫理を逸脱してオマエに一つ教えてやる。それと交換だ。オレの質問に答えろ」

「なんだ」

「宮崎一平、和田洋子殺しが長田の手によるものとわれわれも判断している。証拠収集はこれからだがな。ま、それはいい。長田はあの土地に向かったのか」

「オレはそう踏んでいる」

「証拠は?」

「ない。しかし、そう考えるしかない」

「当然、川崎姉妹もいるんだろ?」

「いるね。そいつは間違いない」

「なぜわかる」

「川崎良子と篤子に確認した」

「その話はオレに伝えなかったな」

「オレは職業上の倫理を踏み外さない。フリーランスなんでね。信用をなくしたら食っていけない。ある意味、警察よりシビアなのだ」

山下の、フンと鼻先でいう音が聞こえた。

ケンスケは興味なさそうにカウチの背もたれに身体を預けていた。

しかし、聞き漏らすまい、と自分の鼓膜に注意を払っている雰囲気はよくわかった。

「知りえたことは全部話せ、とオレは警告した」

「それは聞いた。しかし、オレの商売は自分で護るしかない」

しばらく沈黙のあと、かもしれん、と山下がボソッといった。

食えない刑事だが、有能であることは認めざるをえない。