鼠の目#364(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。こすからい古参下士官

野獣


「満月は人の心をおかしくするそうだ。今夜のオレはおかしいのかもしれん」

下手な言い訳だぜ。

どうしようもねぇな、とオレは情けなくなった。

「だから…、そうだな。あー、いい。わかった。そうすることにする。和田さんのお願いなんだ、聞かないわけにいかない」

「まだ和田さん、になってるわよ」

「あ、そう、だから、えーと、ゆ、ゆ…。えー、次はしっかりというからな。それで勘弁してくれ」

オレは舌がつった。

だらしがない、とはこのことだな。

いいかね、諸君。

オレの名誉のためにいっておくが、人には向き不向きがあるんだ。

オレは屁理屈には強いが、色恋沙汰はてんでなっちゃない。

面倒になってしまうんだ。

恥ずかしい、という気分が先行して、自分の感情を言葉に表せない。

そもそも恋愛感情とは不合理にできている。

人を好きになることに理由なんてない。

それはわかるよな。

例えば、だ。

美女と野獣なんてな下世話でわかりやすいだろう。

蓼喰う虫も好き好き、でもいい。

割れ鍋に綴じ蓋、なんてのもある。

それはオレも重々承知している。

しかしな、この不合理さに自分を委ねてしまうことに、オレの目線の軸がフィットしない。

理に働く自分でありたい、という強い思いがあるのだ。

平たくいや、こういうことだ。

しどろもどろになるようなことは避けたい。

こういうことだ。