鼠の目#408(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親

レーション

それは引越し用の段ボールがガムテープで閉じられている。

「なんだ、これ」とオレは問うた。

「ケンスケなら大体察しがつくだろう」

マリーがケンスケに向かっていった。

「レーションだろ、それ」

「ご明察。本来的に自衛隊がレーションを払い下げることなはいのだが、ちょいと昔の仲間に無理をいって譲ってもらった」

「なんだ、レーションって?」

「ああ、簡単にいや、軍用の野戦食料だな。嵩張らず腹が満たせる。いってみりゃ、野外戦闘ってな究極のアウトドアだからな。がちゃがちゃコンロなんぞを持ち歩かなくてもいいようになっている」

「となると、きっとひどいクソのような味がするんだろうな。うまいまずいをオレはあまりいわんが、どうもな…」

「と、思うだろう。確かに昔はひどかった。食事というより、単にカロリー補給だけというシロモンだった。食えたモンじゃなかった。米軍のCレーションなんて、犬だって食わんぜ。ところが今はてんで違う。確かに料理屋で食べるもの較べちゃいかんが、それなりに気が配ってある。特にな、自衛隊のそれは、日本人向けに相当研究してある。五目鶏飯なぞ、特にうまい。ケンスケんとこじゃ、どうだった?」

「フランスだからね。なんとワインも付いていた。これがレーションか、とすら思ったね。もっともイタリア軍なんてな、専用のコックがいて、アルデンテのパスタが出る、と聞いたことがある。いい、悪いは別にしても、それが国民性ってやつかな。しかし、それじゃ、負けるぜ、とも思ったけどね」

「いいじゃない。面白そう。そういうのって興味本位だけど、食べてみたいわ」

由美子が無邪気にいった。

「まあ、いい。トランクに放り込んでりゃいいんだから。どうせ、マリーだって、来るな、といったところで、自分の足ででもくるだろう」

オレは言葉を区切ってマリーを見た。

マリーはさも当然といわんばかりに、頷いた。

「よし。じゃ、全部トランクに放り込め。4人分だ。十分、収納できるだろう」

それぞれにミネラルウォーター、乾燥食品、レーション、バックパックを詰め込む。

ケンスケがキイを握って運転席に滑り込んだ。

オレが助手席、後席にマリーと由美子が座った。

「大きく迂回して山塊の南東から入らなきゃならない。今からだと…5時間、ってとこかな。よーし、じゃ、行こう」

カローラがその薄汚れたボデイを動かし始めた。