鼠の目#410(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親

ナイフ

闇に目を凝らし、長田はそろそろと川崎姉妹のいる神域へ向かった。

ヒモロギで結界を囲繞した無垢の杉材が白く浮かび上がっている。

その切れ間、出入り口のところに、あの男がいた。

川崎真理子を訪ねたとき、オレに舐めた口をきき、あまつさえオレを張り飛ばした野郎だ。

男は連日の緊張のせいか、杉材にもたれかかり、座り込んだまま寝ている。

コイツとケンスケだけは赦さねぇ、長田は怒りを反芻し始めた。

腰に佩いたサバイバルナイフを手にし、さらに足音を消してその男に近づく。

男はまったく気付いていない。

闇の底が少しづつ明るさを回復している。

急がねば、と長田は思った。

男の前に長田は仁王立ちになり、見下ろした。

サバイバルナイフの切っ先を男の左胸に当てる。

その瞬間、男は目を覚ました。

ぼんやりと開けられた目が、今の状況を徐々に察知したようだ。

カッと男の目が開かれ、何かをいおうとした。

刹那、長田はサバイバルナイフに全体重と膂力をこめ、男の胸を刺し貫いた。

男は一言も発することなく、崩れ落ちた。

弾かれるように長田は立ち上がり、男の襟首を掴んだ。

そのまま引き摺り、出入り口と反対方向の森へ向かった。

サバイバルナイフは突き立てたままだ。

刃渡りのほとんどが、男の左胸に入っている。

ここでサバイバルナイフを引き抜こうものなら、一気に大量出血してしまう。

血溜まりを残すような真似はしたくない。

しかし、男の左胸は血で染まりつつある。

血の染みは暗さに当面は紛れるだろうが、発見されないにこしたことはない。

長田はありったけの力をこめて、男の死体を森の中へ引っ張り込んでいく。