鼠の目#412(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親

ファミレス

早めに出たこともあり、オレを含め、みな昼飯を食っていなかった。

高速を降り、カローラを手近なファミレスに入れ、遅めの昼飯をとった。

オレはビールを飲んだが、ほかは誰も飲まない。

ケンスケは運転だから仕方ないとはいえ、マリーも口にしなかった。

「喉が渇くだろ。水でいいのか?」

半分ほどビールを明けて、マリーに尋ねた。

「ああ。演習の前に酒を飲んだことはない」

皮肉でも非難でもなく、淡々とマリーが答えた。

「どうせ、向こうじゃ冷えたビールなんてない。今のうち愉しんでおくのも悪くない」

水を含んだ後、マリーが付け加えた。

いかにもセントラルキッチンで冷凍したものを暖めなおしただけです、という料理が運ばれてきた。

食ってみてそれはすぐにわかった。

外側は暖かくても、中が冷たいままなのだ。

脂くさく、ベッチョリとしつこい。

オレは箸を放り出しそうになった。

「だめだ。全部食え。レーションと思うんだ」

ケンスケが諭すようにいった。

「今、食っとかないと、次はいつになるかわからん。和田さんもとにかく飲み込め。見ろ、マリーは黙々とくっているだろうが。それがプロフェショナルの段取りなんだ」

有無をいわせぬ、厳しい口調に変わった。

まるでこれから掃討戦に向かう兵士のようだ。

しかし、そのKという神さびた土地では、どの程度か予想はつかぬが、必ずなにかが起こるはずだった。

死や流血ということが現実味を帯びているのだ。

ケンスケの言葉に促されるように、みな、押し黙ったまま箸やスプーンを進めた。

どうにもひどい味だが、オレはビールの力を借りて、流し込んでいった。

こういうときこそ、ビールは有難い。

なにしろ日本のビールはなんでもうまい。

しかも地域差もない。

安心して飲めるじゃないか。

オレはビールに感謝し、すまないが、とみなに断って、もう一本ビールを頼んだ。