鼠の目#414(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親

スパコン

オレはこう思ってる。

科学が歴史を超えてしまったんだ、と。

半可通な言葉ですまん。

が、しかし、これまでの科学技術とは人智の制御内であったと思っている。

手に触れば感触としてわかり、それがなにを目指して拵えられ、どう手入れすればいいか、人間の程に合わせて存在した。

エラソウな哲学用語を使えば、クラリアともいえる。

クラリアは人類の持つ常識や理性、あるいは倫理を踏み外すことがない、そういう人類共通の暗黙的了解の上に成り立っていた。

たとえば、電話は有線を流れる電気信号であり、飛行機は流体力学的揚力により浮き上がる。

あるいは大砲は巨大であればあれほどその図体と破壊力が増し、流線型の車は早そうだ、と直感できた。

ところが、どうだ。

目前のPCという箱からは、ありとあらゆる情報、それもクソのような情報から、猥褻動画、果ては個人情報からペンタゴンの情報まで引き出すことができる。

ごくわずかな専門家を除いて、だれもその仕掛けがわからない。

兵器は質量と光速度の平方積に比例する熱と力を持つにいたった。

手中の携帯電話から世界中に個人へ画像込みで会話できる。

自動車エンジンが故障したらアッセンブリーごと交換しないと、職人の手に負えない。

食料は抗生物質と遺伝子組み換えで作られ、人間の生命誕生すら制御下に置こうとしている。

オレはこのことの是非をいうつもりはない。

そうなっちまったものは、そうなっちまったんだ。

人間が選択した結果にほかならないじゃないか。

しかし、だ。

これだけはいえると思うんだ。

機械と技術が人間の倫理を超えた、と。

制御されるべき科学と技術が自己肥大に肥大を重ね、人間の手に余り始めたんじゃないか、と。

これまでは科学と技術は人類の叡智の結晶であり、その忠実な僕だった。

ところが今、主従は完全に逆転した。

人類の叡智は右往左往している。

なにかとんでもない間違いを犯しているのじゃないか、叡智が不安を抱き始めている。