鼠の目#423(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

轍

「山らしくなってきたわね」

と和田由美子がいった。

「自衛隊時代の演習場とも似ている」

とオカマのマリー。

本人に間違いはないのだが、どうも調子が狂う。

女よりたおやかであったマリーが、凛と背筋を伸ばし、後部座席に座っているという事実が、だ。

心なしか声も野太く感じる。

頭髪もすっかり短くなっている。

わずかに夜の商売の痕跡をとどめるのは、日焼けしていない肌くらいか。

「北冨士演習場かい?」とケンスケ。

「そう。演習場へのアプローチはこんなカンジだったな」

マリーの精神は自衛官のそれに戻っているように思えた。

林道ですら徐々に荒れ始めた。

轍の部分を除いて、獰猛なほど野草が生えている。

林道の両側から延びきった木の枝がせりだし、ピシピシとカローラのボディを鳴らした。

「へっ、どえらい道になってきやがったな」

「行けるところまで行こう。轍があるということは、車がまで進入できるってこったろう」

とオレはケンスケの感想に答えた。

「違いない。しかし揺れるぜ、覚悟してくれよ、和田さん」

「OKよ」

と和田由美子が答えた。

おいおい、ピクニックじゃねぇんだ、といいたいが、ま、いい。

これくらいリラックスしてくれていたほうがな。

しばらく行きあがると、通行止め、という標識がひょいと見えてきた。