鼠の目#429(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

ベレッタ

「長田以外でもよかったんじゃないの?」

「だめね、それは。波動のメンバーは長田のように変質的人格破綻者じゃないの。傷つきやすい魂ばかりなの。その点、長田は違うわ。根っから倫理を欠いているのよ。極端に肥大した自己陶酔だけで生きている。いうなれば人間のゴミね。人間の価値に差はない、とは耳あたりのいい言葉かもしれないけれど、厳然と出来不出来はあるわ。たとえば和田洋子のような魂もあれば、長田のような昆虫以下もいる。ゴミはゴミの役割しかない」

「でも、長田を受け容れるって、生理的嫌悪感はなかったの」

「無論あったわ。でも、確実に和田洋子を殺せるのは長田しかいない、その確信はあった。五分だけガマンしようと決意したの。長田が早漏でよかったわ。鶏なみね。あっという間だった。放精だけがすべて、という自己肥大漢でむしろ助かった」

そう、と川崎真知子は微笑み、続けた。

「それもこれもわたしたちを護るためね」

「今日で終わるわ、それも。すべてが破壊され、土に還り、精神が蒸発するわ」

「死に場所として相応しいかしら?」

「どうかな。でも予定調和の終章を迎えたわけだし、贅沢はいえないわね。姉さんこそ、納得できてる」

「当たり前じゃない。あなたとわたしは聖なる血を引き継いだ人間なのよ。選ばれし姉妹なの。それが際で狼狽したんじゃ、父さんやお爺様に申し訳ないわ。波動の崇高にわたしたちは殉じるの。メンバーともどもね。破滅への気高い行進よ」

妹の真理子が、手箱の中から二つの塊を取り出した。

禍々しい重さを感じさせる塊だった。

「姉さん、これ」

真理子がその一つを姉の真知子に渡した。

真理子はすべてわかっている、という表情でそれを受け取った。

「装填されているの」

「三発入っているわ」

お互いの手には、ベレッタの拳銃が握られていた。

最悪、こめかみに銃口を当て、引き金を引けばいいだけだ。