鼠の目#435(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

地図

稜線沿いの登山道は、ここまでのそれと違い、ずいぶんハッキリしていた。

大方、四季それぞれに山を愉しむハイカーが多いのだろう。

しかし、今はまったく擦れ違うハイカーがいない。

想像するに西側からのメイン登山道入口で規制がかかっているのだと思う。

オレたちが迂回してきた東側は、盲点になっていたのだ。

反対側からのアプローチをリークしてくれた山下刑事に感謝するしかない。

アップダウンも思ったほどきつくなく、1時間半ほどの歩きで、波動キャンプがあると思われる地点に近づいてきた。

そこは稜線から南側にわずかに下ったカール状の地形をなしているはずだ。

少なくとも国土地理院の地図で見る限り、そう判断できる。

先頭を歩くマリーがつと、足を止めた。

左側、つまり南に向かって視線を送っている。

「見えるか、あれ」とマリーが指差した。

雑木の枝々に遮られ、画然とは視認できないが、人工的なストラクチャらしきものは見える。

「あれがそうか?」とオレ。

「間違いないな。砂防ダム以外、一切の人工物は存在しないはずだ」と、丸田陸曹。

「だけど、地主さんがよくなにも言わなかったわね」

和田由美子がタオルで汗を拭いながらいった。

オレのヘバリ顔と違い、颯爽としたままだった。

「国有地なんだろうが、仮に民間地主だとしても、波動の宗旨からいえば、山は無主の地ということだろうね」

汗一つかいていないケンスケがいった。

「どういうことなの?」

「山は神聖なものであって、誰のものでもない、ってことさ。そもそも山を所有するなんて、烏滸の沙汰なんだよ」

「民俗学はまた店で語ろう。マゴマゴしていると日が暮れる。急ごう」

マリーの言葉にオレたちは反応した。

チラと時計を見ると、すでに三時を過ぎている。

急がねばなるまい。