鼠の目#438(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親

谷

「聞こえたか」

「ああ。鬨の声みたいだな」

「波動か?」

「それしかあるまい」

「すぐそこだな」

「木の陰になっているんだろう」

オレたちはてんでな感想を述べた。

同じことが西側から波動キャンプを目指す山下たちにも起こっていた。

「あそこか」

山下は大汗をかきながら呟いた。

定年前の肥り肉に山道はこたえる。

喉が渇いて仕方がない。

ずいぶん水を補給したが、汗とともにながれたミネラル不足がこたえていた。

それを察したのか、若い機動隊の隊員がソルトタブレットを差し出した。

スマン、と片手で謝意を示し、山下はタブレットを口に放り込む。

塩そのものだが、血液にそれがスッと溶け込むような思いがした。

長田は目を凝らして、キャンプを眺めていた。

ついに、きやがったか。

たまらんぜ。

こいつはうれしい。

早くおっ始めやがれ。

ビュンビュンと撃ちまくろうぜ。

長田は酔ったように、これからの暴発を期待していた。

西側から山下を含む警察が進む。

東側からはオレたちだ。さらに北側に長田が位置している。

ちょうど波動キャンプを三方向から囲むように事態が流れている。

ぽっかりと開いた南側の斜面は、深い谷へと切れ込んでいる。

太陽が徐々に傾きを増していった。