鼠の目#445(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

圏外

バリバリバリと建物にむかって射撃が続く。

中はどうなっているのだろう。

山下は同僚のことを案じた。

中に一体、何人が逃げ込んだかわからない。

なんとかしなければ…。

山下は携帯電話を取り出した。

ディスプレイを見ると、空しく圏外のアイコンが表示されている。

ちょうど山影、電波が届かないのだ。

ただハンディトーキーを持参した誰かが、連絡をとっていることを期待するしかない。

それでも、と山下は思った。

重複してもいい、必ず本部に一刻も早く連絡を入れることだ。

少し斜面を上がれば稜線に出る。

稜線からだと携帯が繋がるかもしれない。

本部とて連絡が途絶えれば動き出す。

動き出すが推測に基づいて動き始めるしかない。

まさか波動がライフルで重武装しているとは、顧慮されていない。

この事態に対応するには銃による治安、すなわち警察ライフル部隊を根こそぎ動員するしかなかろう。

とてもじゃないが短銃でライフルには立ち向かえない。

建物内部に入り込んだ同僚たちは、座して死を待つしかないじゃないか…。

山下の焦りは今、無事で潜んでいる警察全員の焦りでもあった。

短銃を手に息を潜め、とにかく波動の火力が一段落するまで待つしかない。

彼らそれぞれに窮地を脱する手段を捻り出そうとしていた。

山下は意を決した。

稜線に上がる。

その方向に波動のライフルがあるかもしれない。

しかし誰かがやらねばならない仕事だ。

それは警官の矜持だ。

たしかに定年前のオイボレだが、少なくとも矜持を忘れた警官は警官じゃない。

職務倫理だ。

山下は、つま先に力を込め、斜面を登り始めた。