鼠の目#446(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田由美子=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、上島上等兵の息子、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。長田の父親

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粘土質の斜面は滑りやすく、また雑木の中のやぶこぎは骨が折れた。

やたらと喉が渇く。

定年前のくたびれた身体には斜面がこたえる。

それでも山下の矜持が身体を持ち上げていく。

時間にしたら10分程度なものだろう。

しかし状況がもたらす切迫感が、時間の感覚を狂わせていた。

稜線への最後の登りを石くれに足をかけて上がった。

周りをざっと見渡して携帯を開いた。

電波状態はOKだ。

山下の耳にはまだ鋭い発砲音が届いている。

もどかしさにイラつきながら、携帯のボタンを押す。

呼び出し音がなるかならぬかのうちに、相手が出た。

「山下だ。トップアージェントだ」

「どうなっている?連絡がとれん」

「波動はライフルで武装している。四方から銃弾が飛び交っているんだ。至急、応援を請う」

「ライフルだと?」

「そうだ。これは現実だ。至急だ。大至急だ。応援を寄越せ。重武装してだ。ヘリも車両も根こそぎ動員しろ」

「指揮系統はどうなっている」

「皆目わからん。ガサを始めたらいきなりだ。チリジリになっている。短銃じゃ対応不能だ」

山下はなるべく冷静になるよう、つとめてゆっくり話した。

「けが人はいるのか?」

「いる。死亡もあるようだ。いいか。その前にさっさとこの情報を上部に報告しろ。それと重武装部隊の出動指令を出せ。自衛隊の治安出動も視野にいれるんだ。これは訓練じゃない。戦争がおっぱじまっているんだ」