鼠の目#453(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

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長田は獣の俊敏性で立ち上がると斜面を上がった。

ケンスケは長田を追おうとしたが、一瞬、振り返ると長田の追跡を止めた。

ケンスケの目に飛び込んできたのは、マリー、つまり丸田陸曹が腹を押さえて仰向けに倒れている姿だった。

オレも和田由美子もマリーのところへ駆け寄った。

ケンスケが一足早く、マリーに手を当てた。

「マリー、大丈夫か!」

ケンスケの声には逼迫した響きがある。

「どうだ、マリー、わかるか、ケンスケだ」

「マリーさん、わたしよ、和田由美子よ、しっかりして」

マリーがうっすら目をあけた。

「チッ、オレもヤキがまわったな。長田のようなクソ野郎に撃たれるなんざ、どうかしてるぜ」

「しゃべるな、マリー。今から、安全に下へ運ぶ。病院にいくぞ」

「おお、鼠の旦那かい。ちょっとな、撃たれどころが悪すぎる。オレだって元陸上自衛隊陸曹だ。それくらいわかる。腹をライフルが貫通してるな。痛くてたまらん。泣きたいくらいだ」

「黙れ、マリー。じっとしてろ。今から運ぶ」

「バカいうなよ。誰が運ぶんだ?救急呼ぼうにも警察だって、かなりやられてんだ。そんな余裕はねぇはずだ」

「そんなことはオレたちが考える。いいから、黙れ。喋るんじゃない」

「いや、いい。喋っとかないと、もう後がない。認めたくはないが、やばいな、この傷は」

ウウウッとマリーが呻いた。

そしてまた口を開いた。やめとけ、というのに…。

「なあ、ケンスケ。オマエは外人部隊の経験でわかるだろう。これだけやられたら、どうなるかぐらい」

視線を向けられたケンスケは無言で頷いた。

「ケンスケ、オレはこのまま死ぬんだろうな。でもな、はっきりいや、死にたくねぇ」

マリーの声が途切れるようになってきた。