鼠の目#454(ほぼ全文はリンクで)

鼠の目・これまでの梗概

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「死にたくねぇな。鼠の旦那から、まだまだ搾り取れたんだ。アイラモルトのいいヤツを手に入れたんだ。一杯で法外な金を取ってやろうと狙ってたんだ」

「マリー、いくらだ一杯」

「五千円でどう」

「いいよ。五千円くらい。どってことないさ。ボトルごと持って来い。マリーにも奢ってやる」

「あら、うれしいわね。和田さんもいただきなさいよ」

「ええ。いただくわ。薄めに…いや、たっぷり入れて。それを水で割ってちょうだい」

由美子の双眸からは滂沱と涙が溢れている。

オレも鼻の奥がキナ臭くなってきた。

「だめよ。割っちゃ。由美子さんのカレ、いってあげなさい」

不謹慎にもオレはちょっと驚いた。

「マリー、知っていたのか。オレと由美子との関係を」

「どこまでおめでたいんだか。オカマのマリーさんの目は節穴じゃないわ。女はね、情けを交わすと匂いが変わるの。わたしは女に生まれたかった男だから、敏感なのよ。いいから、いつもの悪態をいいなさいよ」

「ああ。わかった。オレはずいぶん貧乏してるがな、酒を水で割るほど貧乏しちゃいねぇや…。これでどうだ」

「そうよ。あなたはそうでなくっちゃいけない。貧乏人の見栄っ張りでなきゃね。あなた、いい男だよ」

「ああ、すまねぇ」

「和田さん」

「ええ」

「和田さん、本当に素敵な女性だわ。オカマでもかなわないと思った。そのままで生きていって」

「マリーさん…」

由美子は握った拳を口に当てた。

嗚咽が声になってきた。